中小企業発信月間キックオフ行事「憲章・条例活用シンポジウム」事例報告

6月10日、「中小企業魅力発信月間キックオフ行事~憲章・条例活用推進シンポジウム」が開催されました。当日行われた2つの事例報告の内容を紹介します。

行政・大学と連携したまちづくり
(株)京都インシュアランス 代表取締役 竹村 泰造氏(京都)

 私は2009年に京都同友会へ入会し、2013年に幹事となったことを機に、右京支部の地域連携活動に本格的に加わりました。

 右京区では人口減少や少子高齢化、商店街の衰退などが進む一方、行政も財政難や職員削減に直面し、地域課題への対応が難しくなっています。そのような状況下で、右京支部では以前から、地域行事の開催や区長を招いた記念事業などを通じて行政や区民との関係を築いてきました。2013年以降は、区主催の環境フェスタや区民ふれあいフェスティバルへの出展、まちづくり区民会議への参加、区職員を招いた例会などを重ね、つながりをより強固なものにしています。

連携して地域に残す取り組み

 京都市には多くの大学がありますが、大学卒業後に京都府外へ就職する人が約8割に上り、若者の地域への定着が課題です。右京支部では大学との連携を重視するとともに、若い世代に地元企業の仕事を伝える活動に取り組んでいます。

 その1つが、中高生や大学生が会員企業などを訪ねて仕事を体験する「右京ものづくり塾」です。第1回は、(株)辰馬コーポレーションが運営する京料理せんしょうで学生10名が和食文化を体験しました。しかし、参加人数には限りがあり、より多くの子どもや保護者に地域企業を知ってもらう方法が必要でした。

 こうした中、右京区役所から新たな事業の提案を受け、地域企業や行政機関などによる職業体験事業「こどもシゴト博@右京」を企画しました。会場には右京区にある大学のキャンパスを借り、多くの仕事に子どもたちが触れられる場にするとともに、子どもたちや保護者に地元の大学を知ってもらう機会にもしました。

 開催を重ねる中で、仕事を体験した小学生が「お給料」として会場内通貨を受け取り、地産地消マーケットで買い物をする仕組みへと発展しました。働いて対価を得て、地元の商品を購入する体験を通じ、仕事とお金が地域内で循環する仕組みを学んでもらいます。

 右京区役所と右京支部は2016年12月、互いの人材、知識、情報を活用し、まちづくりと地域内循環型経済を推進する地域連携協定を締結しました。「地域内循環型経済の推進」は、同友会側から盛り込むよう求めたものです。2021年には協定を見直して再締結し、双方が必要と認める事業に取り組む関係へと発展しました。コロナ禍では、小説家などオンラインで体験できる仕事を取り上げ、活動を継続。その後、行政からの資金が縮小する事態が起こりましたが、右京ファンクラブなど地域からの支援も受け、リアル開催を再開しています。

幸せに暮らせる地域循環をめざして

 地域活動を重ねる中で、当社の企業理念も「地域と共に明日の幸せを創造する」へと変わりました。「こどもシゴト博@右京」は、子どもたちに多様な仕事を体験してもらうだけでなく、地域の中小企業が人々の暮らしを支えていることを伝える機会でもあります。こうした活動を一過性のイベントで終わらせず、行政や大学、地域団体との対話を重ねながら継続していくことが重要です。今後も地域の仕事や人のつながりが次の世代へ受け継がれ、地域の中で新たな価値を生み出す、幸せに暮らせる地域内循環型経済をつくっていきたいと思います。

地域全体で循環し続ける仕組みづくり
(有)英設備工業 代表取締役社長 荒川 雅光氏(福岡)

 田川市は、かつて石炭産業で栄え、最盛期には約10万人が暮らしていました。しかし、炭鉱の閉山などに伴って人口は4万人台まで減少。空き家の増加、人材不足、事業承継、インフラ維持など、さまざまな課題が表れています。

 当社は、そんな田川市で「暮らしを守る」を理念に、水道や浄化槽など地域のインフラを支える仕事を行っています。人口が減っても、水道は地域の端から端まで維持しなければならず、利用者が減るほど1人当たりの維持負担は大きくなります。地域のインフラを支える当社にとって、地域の存続は自社の存続に直結します。「地域がなくなれば、私たちの仕事の存在意義もなくなる」。この危機感が、地域づくりに関わる原点です。

条例を実践につなげる

 2015年に田川市中小企業振興基本条例が制定され、2016年には田川市産業振興会議と、企画立案等の実務を担う実務責任者会議が設置されました。まず行ったのが、市内2104事業所を対象とした実態調査です。回答が思うように集まらない中、委員が企業を訪問し、電話で協力を呼び掛け、751事業所から回答を得ました。

 調査結果から、経営者の学び、人材育成、事業承継、販路拡大などの課題を整理し、2019年に「中小企業が元気に活躍するまち田川~みんなでつくる地域内経済循環~」というビジョンを策定。その実現に向けて、4つの部会が動き始めました。

地域の困りごとを新しい仕事へ

 第1部会は、経営理念やビジョン、経営計画などを学び、地域企業の経営力を高める活動です。第2部会は、地域課題をビジネスで解決する「TAGAWA GOLD RUSH」を実施し、初開催ながら全国から49組の応募がありました。

 第3部会が運営する「KIBITTE」は、地域住民と事業者を結ぶ仕組みです。「水が漏れているが、どこに頼めばよいか分からない」「野良猫が多い」「話し相手が欲しい」といった困りごとを集め、解決できる地域企業につなぎます。KIBITTEに寄せられた声は、GOLD RUSHで新たな事業を考えるための種にもなります。

 第4部会では、高校生主体の「たがわPlanners」が活動しています。大人は助言にとどまり、高校生自身が地域課題を学び、イベントや中学生への学習支援などを企画します。困りごとを集め、仕事に変え、地域課題の解決を実践できる経営者を育て、次代の担い手につなぐ。4部会は別々の活動ではなく、1つの循環として動いています。

ビジョンを暗闇の中の灯台に

 ここまでの道のりは、決して簡単ではありませんでした。前例がなく、取り組みが正しいのかも分からない。成果が見えず、会議に人が集まらない時期もあり、何度もやめようと思いました。それでも進むことができたのは、ビジョンと方針があったからです。ビジョンは、暗闇の中で進む方向を示す灯台のようなものでした。全員に1度に理解してもらうのではなく、1つ1つ実践するたびに理解者を1人ずつ増やしてきました。

条例は地域を豊かにする土台

 条例は、つくることがゴールではありません。地域を豊かにするための土台です。現在、4部会の活動は田川市の総合計画にも位置づけられています。産官学金がそれぞれの役割を果たし、地域の課題、人材、仕事、若者の成長が地域内で循環し続ける仕組みをめざして、これからも一歩ずつ進んでいきます。

「中小企業家しんぶん」 2026年 10月 5日号より