中小企業魅力発信月間キックオフ行事「憲章・条例活用推進シンポジウム」事例報告

6月5日、「中小企業魅力発信月間キックオフ行事~憲章・条例活用推進シンポジウム」が開催されました。本号では、当日行われた2つの事例報告の内容を紹介します。

条例の理念の具体化に向けて
~行政との信頼関係づくりから始まった~
丹野公認会計士・税理士事務所 代表 丹野 勇雄氏(福島)

自己・地域紹介

 福島県南東部に位置するいわき市は人口約32万人、県内第2位の都市です。私は2009年に同友会に入会、現在はいわき支部副支部長を務めています。「いわき市中小企業・小規模企業振興会議」(以下、振興会議)では発足以来委員を務め、現在は会長を引き受けています。

「いわき市中小企業・小規模企業振興条例」(以下、振興条例)がつくられた経緯

 1999年に設立されたいわき支部ですが、当時は他の経営者団体よりも認知度が低く、役員による行政・他団体・報道機関などへの年2回の活動報告から関係づくりを始めました。そんな中、東日本大震災が発生します。震災後、若年層の流失が顕著に表れ地域全体で危機感が高まっていたとき、市が企画した合同企業説明会に対する協力要請が舞い込みました。この説明会をやり遂げたことをきっかけに行政が開催する行事に共催依頼を頂くようになり、1つ1つを丁寧に対応し関係を深めていきました。

 2010年、中小企業憲章が閣議決定され、いわき支部でも条例制定に向けて活動を始めた当初、市の担当部長は「市の既存の施策があるのになぜ制定する必要があるのでしょうか」との反応でした。支部内では勉強会を開催し、市の関係者も参加するなど関係性の下地づくりはしていましたが、ゴールまでの道筋は全く描くことができません。そんな中、2013年の市長選で振興条例制定を公約に入れた立候補者が当選したのです。これが転機となり市は明確に条例制定へと動き出します。振興条例制定に向けた有識者会議にいわき支部が委員として指名され、2016年3月に振興条例が制定されることになります。

振興会議の運営とこれまでの取り組み事例

 振興会議自体に特徴的なことはありませんが、委員以外では同友会事務局もオブザーバーとして毎回の出席を許されています。運営上の特徴は毎回の会議の前に市の担当者が各委員を訪問し、事前のヒアリングと打ち合わせを行います。同友会の経営指針づくりを事業として検討したいという話が出たのも、このヒアリングがきっかけです。2023年度に「いわきビジネススクール」と銘打ち、経営指針を市内の経営者に作成していただく事業につながりました。他にも発足後すぐに市と商工会議所が主導し、全国でも例のない「振興基金」を創設しました。市内の中小企業などが取り組んだ新規事業や販路開拓に対し補助金を交付するという事業を実施しています。

 市職員の方々との関係性は着実に積み上がり、市庁舎各所に理解者が広がっています。経営指針の事業化も、このような関係性と同友会活動に対する理解の延長線上で実現したと捉えられるのではないでしょうか。

まとめ

 いわき市は3年前に市長が変わりましたが、市の中小企業施策に対するスタンスは全く変わりません。市の担当者の熱意による振興会議発足時からの活発な運営と築いてきた信頼関係により、同友会の声が届きやすい環境が整ってきました。今後は私たちの政策提言能力を磨き、いかに行政に働きかけていけるかが重要になっていきます。

 今後も同友会が市から頼りにされる経営者団体であり続けることは、地域社会からあてにされ、選ばれる企業になっていくこと、21世紀型企業づくりを実践していくことであると思います。

持続可能な地域をめざして
~氷見の森の活用で未来をつくる~
岸田木材(株) 代表取締役 岸田 毅氏(富山)

 氷見市は林業が盛んな地域で、明治から昭和にかけてボカスギ林業が発展しました。ボカスギは成長スピードが速くまっすぐに育ち、しなやかなのが特徴で、北前船のマストや電信柱などに活用されて一世を風靡(ふうび)しました。

 2010年、氷見市の道の駅「ひみ番屋街」の建設が始まりましたが、氷見市産木材は使用されず、100%アメリカ産材でした。地元に素晴らしい木材があるにもかかわらず活用されないという悔しい思いをし、これを糧に職種の壁を越えて同志を募り、森林組合・伐採業者・設計事務所・製材所など16社で「ひみ里山杉活用協議会」を立ち上げました。

地元産木材のブランド化

 まずは、氷見市産杉のブランド化を図りました。若手社員の発案で「Himi Brico Labo」の企画・運営をスタートし、製材時に出る規格外の木材や半端材などを直営店で販売して、SNSを有効活用しながら全国へ情報発信しています。また、アップサイクルとして、端材を割り箸や積み木などに生かしており、2021年にはそれまで捨てられていた杉の樹皮をアップサイクルした新商品のインクを開発しました。これらの取り組みはNHKで取り上げられ、2022年12月にはウッドデザイン賞奨励賞を受賞したことで、その後1年間は毎週テレビやラジオ、新聞、雑誌などの取材が続きました。

 さらに、自分たちで切った木で家を建てたいという家族向けに伐採体験を実施しています。子どもたちには植林や木の年輪を数える体験をしてもらい、お箸づくりやイスの製作など親子で参加できるイベントも続けています。どんなふうに木が育っているのかを実際に見てもらうことで、森を手入れすることが山や川、海などの豊かな自然を守ることにつながることを体験してもらいます。

 こうした活動には行政も賛同し、2016年には木育に取り組む「ウッドスタート宣言」を氷見市が全国で18番目に調印。2018年には氷見市木育ビジョンも作成され、2021年には氷見市海浜植物園を木育拠点としてリニューアルし、多くの子どもたちが訪れています。

若者に地元の魅力を伝える

 2022年3月に「ひみ里山杉等利用促進に関する協定書」が締結されました。それによって、その後建設された氷見市芸術文化館と新町保育園は氷見市桑院地区の木材100%で建てられました。この協定書をきっかけに、竹林の活用などの研修会や、初心者向けに刈払機やチェーンソーの使い方などを教える安全講習もスタートしており、氷見の里山資源を一緒につないでいく仲間づくりにもつながっています。

 地元の中学校・高校とも連携しており、その1つが氷見高校での「未来講座HIMI学」です。社員が氷見の林業について授業を行い、生徒たちには山や製材所の見学をしてもらいます。授業で製作した「特別編集版るるぶ」にはひみ里山杉の特徴や歴史などが高校生のコメントを添えて掲載されています。

 未来のユーザーである子どもたちに思いを伝えながら、林業と製材業を合体させた総合森林木材産業をめざしていきたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2024年 8月 5日号より